Red Dot Design Awardとは
1955年からバウハウスに代表される近代デザイン発祥の地"ドイツ"で始まった「世界三大デザイン賞」のひとつ。
世界中の優れたプロダクトを対象に、デザインの美しさだけでなく、機能性、革新性、品質、使い心地まで、多角的な視点から審査されます。プロダクトデザイン分野において世界最高峰の評価基準を持つ国際的なデザインアワードとして広く知られています。
「Best of the Best」について
Red Dot Design Awardにおける最高位賞。
毎年世界中から応募される万を超えるプロダクトの中から、授与できるのは僅か1%未満と言われる最高位の称号。
受賞作品は世界のデザインを代表するプロダクトとして高く評価され、ドイツ・エッセンのRed Dot Design Museumに約1年間展示されます。
Why It Was Recognized
~評価されたポイント~
数寄屋の美意識を受け継ぐ造形
日本の伝統建築「数寄屋造り」が誇る、質素でありながら洗練を極めた意匠美。
自然素材の風合いを慈しみ、静寂の中に細やかな気品を宿す日本固有の感性です。
「サクヤ」は、この古き良き美意識を継承し、現代のプロダクトとして表現した一脚となります。
余分な装飾を排し、自然素材の温もりと洗練されたシルエットを両立。職人の卓越した技術によって、そこにあるだけで空間に心地よい静けさと品格をもたらす佇まいを実現しました。600年の時を超えて響き合う伝統とモダンが、世界を魅了する美しい日常を創り出します。
所作まで導く、人に寄り添う掛け心地
「サクヤ」が目指したのは、単に心地よく座れる椅子ではありません。身体を無理なく支え、座る姿そのものが美しく見え、自然と背筋が伸びることで、長時間でも負担の少ない姿勢を保てることを追求しました。極限まで構造を削ぎ落とした一方で、背板には複雑な三次元曲線を、背柱には繊細な傾斜を施すことで、身体の動きに静かに寄り添うしなやかな弾力を実現。人の身体だけでなく、その所作や日々の過ごし方まで穏やかに整え、暮らしそのものの質を高めることを目指した一脚です。
世界最軽量級の重量と堅牢さの両立
世界最軽量級約1.7kgという軽さは、数値を競うためではなく、人の暮らしに寄り添うために生まれました。女性や高齢の方でも片手で軽やかに扱えるサクヤは、日々の何気ない動作の負担を減らし、暮らしのストレスを静かに和らげます。その軽さは、しなやかで粘り強い日本の山桜の特性を生かし、部材を機能と強度を損なわない限界まで細く、薄く磨き上げることで実現しました。自然資源を最小限に生かす無駄のない構造でありながら、極めて高い耐久性も両立。軽やかさと堅牢さという相反する価値を、一脚の椅子の中で実現しています。
素材の追求
日本には、自然からいただいたものを使い、役目を終えれば再び自然へ還すという、循環を尊ぶ文化があります。「サクヤ」は、その思想を現代の家具づくりに受け継ぎました。
日本固有の山桜をはじめ、真田紐、小倉織、亜麻仁油など、風土と歴史が育んだ素材と伝統技術を積極的に採用。石油由来素材に依存せず、すべてが自然へ還ることを見据えた素材選定を行っています。
国産広葉樹の需要を高めることは、森林の適切な管理や植林、生物多様性の保全、水源涵養、さらには輸送に伴うCO₂削減にもつながります。一脚の椅子をつくることが、日本の山を育て、豊かな暮らしと地球環境の未来へつながる。そんな想いが形となったのが木花佐久夜意須/KONOHANA SAKUYA ISUです。
Designer's Voice
デザイナーインタビュー
Question 1. KONOHANA SAKUYA ISU を生み出したきっかけは何でしたか。また、開発において特に重視した点は何ですか。
KONOHANA SAKUYA ISU は、日本の数寄屋建築が持つ精神や、日本独自の美意識を、現代の椅子としてどう表現できるかという思いから生まれました。単に見た目の造形から考えるのではなく、私が本当に日々使いたいと思える椅子とは何かを問い直すところから始めています。開発で特に大切にしたのは、極限までの軽さ、自然と美しい姿勢へ導く座り心地、そして日本の素材や技術、空間文化に根ざした静かな美しさ、この三つをひとつの形の中で無理なく成立させることでした。
Question 2. 人間工学の面では、どのような点を考慮しましたか。
身体を無理なく支えながら、座る姿そのものが美しく見えることを大切にしました。寸法設計にあたっては、日本建築のスケール感や、日本人の日常動作に寄り添う身体感覚も意識しています。背もたれは身体にやさしく沿い、腰まわりをしっかり支えながら、無理なく自然に背筋が伸びるように整えました。私は、椅子の人間工学とは単なる座り心地の良さだけではなく、座る所作や姿勢まで含めて考えるべきものだと捉えています。
Question 3. 高い安定性を保ちながら、どのようにしてこれほど軽量に仕上げることができたのですか。
この軽さは、素材への深い理解と、構造を徹底的に磨き込んだ結果として実現できたものです。主材には、高密度で粘り強さを備えた国産の山桜を使っています。この木の特性を活かすことで、強度を損なわずに部材を極限まで細くすることが可能になりました。また、見えない部分の接合や全体の構造バランスについても、試作を重ねながら細かく検証しています。その結果、見た目にはとても繊細で軽やかでありながら、しっかりとした安定性と耐久性を備えた椅子に仕上がりました。
Question 4. 現代的でありながら伝統性も感じさせる佇まい、その両立はどれほど難しかったですか。
それは、このプロジェクトの中心にあった大きなテーマのひとつでした。私は、懐古的なものや表層的な“和”をつくりたかったわけではありませんし、かといって伝統を消し去って無国籍なモダンにしたいとも考えていませんでした。目指したのは、数寄屋建築に宿る抑制や比例の美しさ、静かな緊張感といった本質を、いまの暮らしの中で自然に生きる椅子として翻訳することです。つまり、伝統を装飾として足すのではなく、構造や素材、プロポーションそのものの中に息づかせることが重要でした。
Question 5. 持続可能な素材を選ぶことは、あなたにとってどれほど重要でしたか。また、それは機能面や美しさの面でどのような利点をもたらしましたか。
持続可能な素材を選ぶことは、この椅子において最初から欠かせない前提でした。私は、最終的には土に還っていけるような椅子をつくりたいと考えていました。そのため、国産の山桜、亜麻仁油、天然ラテックス、伝統的な織材など、自然由来で生分解性を備えた素材を選んでいます。サステナビリティは後から付け加えた条件ではなく、この椅子の思想そのものです。同時に、こうした素材は機能面や美しさの面でも大きな魅力を持っています。山桜は強さと繊細な木肌を併せ持ち、亜麻仁油は木の呼吸を妨げず、自然素材の座面は温かみや質感、耐久性、そして合成素材には出しにくい本物の表情をもたらしてくれます。
Question 6. 椅子をデザインすることには、一般的にどのような難しさがありますか。
椅子のデザインは、常にたくさんの条件を同時に満たさなければならない難しさがあります。構造的に安全であること、座り心地がよいこと、耐久性があること、見た目として美しいこと、そして実際の暮らしの中で自然に使われること。そのすべてが求められます。寸法や角度のわずかな違いが、座り心地や印象を大きく変えてしまうので、とても繊細な調整が必要です。椅子は人にとって最も身近な道具のひとつだからこそ、良し悪しが直感的に伝わります。だからこそ私は、機能、構造、美しさ、そして人の感覚を、ひとつの整った形にまとめ上げることが椅子のデザインだと考えています。
Question 7. より持続可能な世界を実現するうえで、プロダクトデザイナーにとって最大の課題は何だと考えますか。
大きな課題のひとつは、表面的な“サステナブルらしさ”にとどまらず、素材の調達から製造、耐久性、修理のしやすさ、さらに長く使い続けたくなる価値まで含めて、製品のあり方全体に責任を持つことだと思います。本当に持続可能なプロダクトとは、単に環境負荷を減らすだけでなく、人が手元に残して使い続けたいと思える理由を持っていなければなりません。そのためデザイナーは、効率や性能だけでなく、意味や愛着、文化の継承まで考える必要があります。もうひとつは、地域の素材や技術、地域の生態系とのつながりを取り戻すことです。私は、サステナビリティは技術だけの問題ではなく、文化の問題でもあると考えています。人ともの、そして環境との関係を、もう一度ていねいに結び直していくことが大切だと思います。
KONOHANA SAKUYA ISU
木花佐久夜意須